第36話   黒鯛の渡り              平成26年11月30日  

 今年もクロダイの落ちの季節になった。
海が時化ると決まって酒田の港内に入って来る。時々波の飛沫が飛んでくる程度の時化の時、尺物の大釣りを狙って北突堤の曲がりから、白灯台の先端まで百人以上の人が並んだ。釣れるのは早朝から昼頃までで、それ以後はぽつぽつの状態となる。二、三歳物は、港内の少し奥まで入って来る。
 当時そんな黒鯛が釣れた時、渡りと呼んだ。酒田市内の釣具屋には、「何処に渡りが入って来た!」と云う情報が流れると、餌が飛ぶように売れ直ぐに売り切れとなる。嵐を避けて港内などに入って来るのを渡りと云うのだが、男鹿や吹浦以北の黒鯛が大挙して暖かい新潟の県境当たりまで南下して来る黒鯛の群れがいると云うまことしやかな伝説が江戸時代からあった。江戸時代の著した陶山槁木の「垂釣筌」の中にも渡りの記述がある。
 その為か、渡りと云う伝説が長きに渡って庄内の釣師たちの間に、信じられて来た。事実は釣り場の沖の深場に黒鯛の群れが集まって越冬すると云う事が分かって来た。そんな訳で深場に落ちる過程で、群れると云う過程で海が時化ると大挙してその群れが港内や、澗(=磯場の湾見たいな場所)に入って来る。そんな場所で釣り人が大当たりした結果として、渡りと云う釣用語が生まれたのではないか(?)と云える。
 そんな黒鯛はお腹が減ると沖から群れをなして沿岸に近づいて来る。普段は単独行動する大型の黒鯛でも群れを成して行動して来るらしいのだ。たまたま防波堤や磯に撒餌をして、その群れに当たれば大釣れが期待出来る。これが日本海側で行われている寒クロ釣りの実態であり、落ち=渡りの実態なのである。
 例外的に防波堤や磯などの深みに寒さに馴れた年無し等が住み着き、偶々釣れる事もある。これは居着(いづき)黒鯛と云い渡りとはっきり区別出来る。そんな渡りの黒鯛は、一般的に体が銀色で、きれいなので直ぐに判別出来る。